愛かわらずな毎日が。
車を走らせる彼の左手と、助手席から彼の横顔をチラチラと盗み見する愛の右手が繋がれたのは、ほんの数分前のこと。
「送ってく、って言ったけど。それ、嘘だよ」
信号待ちをする彼の放ったひとことで、愛の心臓がドクンと跳ねた直後。
彼の大きな手が、愛の右手に重ねられた。
驚いた愛が視線を向けたものの、彼は、フッと息を漏らすと視線を正面へと戻してしまった。
「………あ、……え、っと」
彼の手の下で、恥じらうように動く愛の指先。
頭の中に浮かんだ言葉を素直に口にするべきかどうか、迷っているようだ。
視線を落とすのも躊躇ってしまうほど、自分の右手に重ねられた彼の手を意識していた愛は、しばらく視線をふわふわと漂わせたあと、涼しげな顔で信号を見つめる彼に助けを求めた。
「………あの、……ふく、も、と…さん?」
「ん?」
「それって、………どういう、」
「どういう、って」
「…………え、っと。……だから、」
落ち着きをなくした愛の左手は、癖ひとつない栗色の髪を撫でつけては耳にかける仕草を繰り返す。
その姿を目にした彼は、綻んだ表情もそのままに、先ほどと同じ言葉を口にした。
「送ってく、って言ったけど。それ、嘘だよ」