愛かわらずな毎日が。
肩がピクンと跳ねる。
心臓がトクンと跳ねる。
その拍子に吸い込んだ空気のせいで、のどがピリリと震えた。
「………ふくもと、さん」
「うん」
「………あ、…の、…………、」
先ほどと同じように、言葉にして伝えればいいのだ。
足りないだとか、さみしいだとか、自分の中にある想いを、吸い込んだ空気にのせて吐き出せばいいのだ。
握りしめていた手にきゅっと力を入れた愛が、あとに続く言葉を口にしようとした、そのとき。
「……あ。」
信号が青に変わる。
「青だ」
「……で…す、ね」
彼はゆっくり瞬きをすると、重ねた手はそのままに、静かに車を発進させた。
「…………、」
吸い込んだ空気すべてを言葉にすることができなかった愛は、それを小さなため息に変えて吐き出した。
このまま黙ってやり過ごすことはできない。
こくりと頷いて、「……私も、」と言うだけでは足りない。
それくらいのことは、愛もわかっていた。
「…………、」
彼に気づかれないように小さく息を吸い込んだ愛は、手のひらを上に向け、重ねられていた彼の骨ばった指と指との間に自分の指をゆっくりと滑り込ませた。
そして、そっと息を吐き出すように、想いを口にした。
「………いっしょ、に、……いたい。
……帰りたく、ない、……です」