愛かわらずな毎日が。

私の機嫌をとるために、焦ってケーキを買いに走っただなんて。

ゆったりとした空気を纏ってキッチンに立つ福元さんからは想像もつかないんだけど。


『嫌いって、言われるのかと思った』

『愛想、尽かされたのかと思った』


弱々しく響いた声も。どこか悲しげな表情も。

確かに耳にしたし、目にした。


『私と別れたくなったときは、……ケーキを丸ごと一個、用意してくれませんか』

そんなくだらないお願いをした私。
(福元さんはそのことを憶えていなかったけど)

昨日は、ケーキを見ただけで泣いてしまったけれど。

今日は、自然と口元が緩んでしまう。



「大丈夫?」

ケーキを切り分けるのに手間取っている私の横で、福元さんが揃いのマグカップを手に小首を傾げる。


「大丈夫、です」


ホールケーキを切り分けるなんて、そんな機会は滅多にないから。


崩さないように。倒さないように。

慎重に、慎重に。


「これ、苺がいっぱいのってるから、福元さんのぶんで、………っ、」


「あ。」


「………倒れちゃった」


「あはははは」


「ごめんなさいっ。これっ、私が食べる…っ、
食べます!」


「いいよ、俺が食べるし。でも、」


「……でも?」


「予想通り、っていうか。
愛ってさ、期待を裏切らない子だよね」


「……………」









おまけ『かわいいひと』 完. 2016.2.10

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