愛かわらずな毎日が。
「そうそう。香織の代わりに入ってきた女の子がね、」
「仕事、辞めてないでしょうね」
「ゲンゾーは元気してるの?」
なんて。
さっきから当たり障りのない話題を出す私。
私の話に耳を傾けるみつひろは、あの頃と同じようにいろんな表情を見せる。
そのどれもが懐かしく思えた。
私は自然と緩んだ口元を誤魔化すようにカップに口をつけた。
あの日。
みつひろとの思い出をしまい込んで、前を向いて進もうと決めた日から。
胸にできた小さな傷や、苛立ちや後悔に苦しめられることが時々あって。
その度に、時間が解決してくれると、そう自分に言い聞かせてきた。
それを今、実感している。
みつひろがくれたすべてを、懐かしい思い出にできている、と。
「………愛、」
ぬるくなってしまったコーヒーをひとくち飲んだところでみつひろが口を開いた。
「うん?」
「愛、ちゃん」
「………なによ。気持ちわるい」
コホッと咳払いをしたみつひろが、椅子に座り直し姿勢を正した。
「え…?なに?」
私まで背筋を伸ばさなくちゃいけないような気になるじゃない。
私がズリズリとお尻をずらし、少し丸まっていた背中に力を入れたときだった。
「ごめん」
1年と8ヶ月振りに再会した元カレが、私に頭を下げた。
「……………」
なによ、急に。
そんな言葉すら言えなかった。
ゆっくりと顔を上げたみつひろが、ズズッと鼻を鳴らすと、
「ずっと、気になってたんだ」
そう言った。