愛かわらずな毎日が。

スマホをバッグにしまい、ほうっ、と短く息を吐く。


「明日の帰り、食事にでも行きませんか」って言えなかったな。

久しぶりにゆっくり食事でもできたら、と思ったけど。

あぁ、でも。

福元さんの机の上はファイルが山積みになっていたから、その処理に追われて残業するかもしれない。


それでもいい。

とにかく顔が見たい。

「お帰りなさい。お疲れ様でした」と、顔を見て伝えたい。


できれば、ぎゅっとしたい。してもらいたい。


きゅうっと締めつけられた胸に手を置き、ふーっと細く息を吐き出した。


たったの二日顔を合わせないだけで、こんなにも会いたい気持ちが膨らむなんて。


声を聞いたせいか。

「幸せ」と口にしたせいか。

それとも。

みつひろに会ったせいなのか。


恋しいと思う理由はいくらでもある。

どんなことでも理由になってしまう。


「はやく会いたい……」

春の風に遊ばれた髪を耳にかけ、そう呟いた。


何処から飛んできたのか、ひらひらと舞う桜の花びらが視界に入り込んできた。

私はそれを目で追いながら、体に溜まった熱を放出するように細く息を吐き出した。

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