愛かわらずな毎日が。

「それは、………」

「べつに、社内恋愛禁止ってわけじゃないのに」

「そう、……なんですけど」


内緒というか。

ただ単に。言い出せないでいるだけ、というか。


付き合いはじめの頃、私たちの関係を知っている香織や森下の前でも、私は福元さんに対してどこか他人行儀な接し方をしていた。

そうしてしまったのは、「公私混同しない」って考えが私の中にあったからなのだけれど。


でもその考えを福元さんに押しつけたことは一度もなくて。

私が言わなくても、福元さんは理解してくれていたのだと思う。

福元さんも私に合わせるようにして、接してくれていた。

そうすることが当たり前になっていた。

だから今でも私たちの関係は、「内緒」のままなのだ。


「福元さんに迷惑掛けたくないというか。
仕事がしづらくなるとか、そういうのは……、やっぱり避けたいし、」

チラリと佐伯さんを見ると、佐伯さんはフッと息を漏らしたあと、

「あいつは、そんなこと気にしてないよ」

そう言ったのだ。


「えっ?」


「んじゃ、もう行くよ」


「あっ、……あのっ、」


「行ってきます」


「……え、っと」


引きとめようにも言葉が出てこない。

佐伯さんは一度だけ振り向くと、にっこり笑って、じゃあね、と言うだけ。


………困る。

これだから、困る。


佐伯さんはいつだって、こうやって中途半端な状態で終わらせるから。

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