愛かわらずな毎日が。
インスタントコーヒーの瓶を手に取った私が、
「仕事、少しは慣れましたか?」
と訊ねると、青山さんは、
「少しだけ、」
と言って口角を上げた。
「………ヤバい。キュンキュンしちゃう」
青山さんのこの笑顔を見たら、森下はきっとこう言うはず。
森下だけじゃない。
実年齢より若く見えるせいか、青山さんのことを「かわいい」と言う女子社員は多くいる。
「困った顔した青山さんを見てると、なんだかイジワルしたくなっちゃう」
そんなことを言って騒いだりして。
だから。
「坂口部長は放任主義だって聞きますけど。
大変じゃないですか?」
と訊いたとき、
「あ、……いえ。ははは、」
人さし指で右耳の上をポリポリと掻く青山さんを見て思わず吹き出しそうになってしまったのだ。
「なんで笑うんですか、」
「だって、…ふふっ。シワが。青山さんて、いつもここにシワ、寄せてますよね」
自分の眉間に人さし指をあてた私。
「そんなことない、と思います」
と、手のひらで額を隠した青山さん。
クスクスと笑う私を見て、きっと眉間にシワを作っていることだろう。
「お砂糖は?」
「あ。自分で」
困った表情のまま棚からスティックシュガーを取り出した青山さんは、空いている方の手のひらで額にできたシワをぐりぐりと伸ばしはじめた。
「あははっ。はい、どうぞ」
「あ、…ありがとうございます。すみません」
青山さんはシンク横のワークトップに置かれたマグカップに視線を落とすと、スティックシュガーの袋を破り、それをゆっくりと傾けた。