愛かわらずな毎日が。

青山さんの、「ゴクリ」と音でも聞こえてきそうな喉元の動きに目を奪われる。

ふっ、と。

短いけれど勢いよく吐き出された息には、どんな意味が含まれているのだろう。


わずかながら伝わってきた緊張感に反応したのか、私の心臓がトクトクと動きを速める。


たまらず「あの、」と口を開きかけたとき、青山さんの唇がゆっくりと動いた。


「もしよかったら、今度、……食事でも」


「えっ?」


「あ、……なんていうか。すみません、急に」


「……あ、……いえ、」


食事の誘いなんてよくあることだ。

だって。

「今度ふたりっきりで食事でも、どう?
愛ちゃんの知らない福元をこっそり教えてあげるよ」

って、佐伯さんが言うし。

「どうせヒマだろ?メシでも行こうぜ」

って、井沢も。


だから、特別なことでもなんでもないんだって思うのだけど。


スンと鼻を鳴らした青山さんの頬が、少しだけ赤く染まっているように見えたから。

だから。

ドクドクと動きを速める心臓に思わず問いかけてしまった。


なに?

どういうこと?


って。


「……えっ、と。……それって、私と、」


「はい。……あ、でも。無理にとは言いません。ふたりが嫌なら、他の人にも声を掛けて。
でも。………できれば、ふたりのほうが」


「…………」


青山さんの生み出す雰囲気に、のみ込まれそうになる。

バクバクと激しく動く心臓は、なんだか自分のものじゃないみたい。


私を食事に誘う理由に、きっと深い意味なんてない。

そう思いたいのに。

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