愛かわらずな毎日が。
「………あの、」
返事に困った私は、そう言ったっきり黙り込んでしまった。
「ふたりっきりは、さすがにムリです」
とか。
「あんたが思ってるほどヒマじゃないし」
とか。
佐伯さんや井沢に対しての返事ならすぐに浮かんでくるのに。
なぜだか今は、これっぽっちも浮かんでこない。
たった数秒の沈黙ですら、ズッシリと重たく感じてしまう。
できることなら、今すぐここから逃げ出したい。
そう思ってしまった、そのとき。
「邪魔して悪いけど」
突然、コツコツと壁を叩く音と聞き慣れた声が耳に飛び込んできた。
……この声。
体温が一気に上昇したかと思ったら、そのすぐあとで、頭のてっぺんからつま先まで血の気が引いていく感覚がした。
やましいことなんて、ひとつもない。
それなのに、この状況をどう説明するべきか、私の頭の中を言い訳にも似た言葉がかけ巡る。
「…………ぁ、」
「お疲れ様です」
青山さんがペコリと頭を下げると、福元さんは、あぁ、と短く返事をした。
そしてすぐに私に視線を戻すと、
「悪いけど、俺にも淹れて。砂糖も」
それだけ言うと、くるりと背を向け自分の席へと歩いて行く。
「……はい」
声にならない私の返事は、福元さんの耳に届くことなく、すぐに消えてなくなってしまった。
福元さんが一瞬だけ見せた表情と、「砂糖も」と言った声は、いつもと違っていて。
そっけない態度も、今まで私に見せたことのないものだった。
ドクンドクン、と動く心臓。
指先は、心なしか冷たく感じる。
気持ちを落ち着かせようと、青山さんに気づかれないように息を吐き出してみたけれど、あまり意味をなさなかった。
食器棚からマグカップを取り出す手が少しだけ震えていた。