愛かわらずな毎日が。
「もしかして、全部覚えてるんですか?」
「……え?」
急に何を言い出すのかと青山さんを見ると、青山さんが私の手元を指さして言った。
「カップです。誰のものか、ここにあるもの全部を把握してるのかな、と」
青山さんの視線と私の視線が、イエローグリーンのどっしりとしたデザインのマグカップに注がれる。
これは、福元さんの。
福元さん専用のマグカップ。
「えっ、と……。全員の分までは、さすがに」
「そうなんですね。砂糖も、ちゃんと2本用意してるから。ひとりひとりの好みも把握してるなら、すごいな、と思ったんですけど」
青山さんの言葉に、顔の前でブンブンと手を振って否定する。
「まさか。ないです、ないです。
なんていうか。……えっと。前にも淹れたことがあって。お砂糖の数も、そのときに」
マグカップは、先月末、「会社で使ってるカップが欠けた」と何気なく言った福元さんに私がプレゼントしたものだ。
30個近くある、色も形も様々なカップの中から迷わず手に取るのは当然のことで。
だけど。
それをそのまま口にすることができなかった。
事実を包み、隠す。
「だから、覚えてたんです」
「そうだったんですね」
「……はい」
コクリと頷いたとき、不意に佐伯さんの顔が浮かんだ。
『福元と付き合ってること。いつまで内緒にしておくの?』
そう言ったときの顔が。
チクチクと、なにかが刺さったかのように胸が痛む。
私の中のもうひとりの自分が、
「事実を伝えるなら、今じゃない?」
そう言っているような気がした。
けど。
「そろそろ坂口部長が戻られるころなので。
仕事に戻ります」
覚悟を決めてスッと息を吸い込んだ私に、腕時計で時間を確認した青山さんが少し焦った様子でそう言った。