愛かわらずな毎日が。

「そうだ、」と。

何を思いついたのか、突然、福元さんが口を開いた。


「今から見に行こうか」


「……え?」


顔を上げた私の髪をひと撫でした福元さんが、ふわりと笑う。


「桜」


「さくら?」


「前に、言ってただろ?」


前に?……桜を。


「………あ。」


そういえば。


たしか、桜が咲きはじめた頃。

「散る前に、一緒に見に行けたらいいな」

思わず口走ってしまったのを慌てて取り消したことがあった。

ちょうど福元さんの仕事も忙しくなりはじめていた頃で、無理を言ってはいけないと思ったからなのだけど。


覚えていてくれた、ってこと?


「えっと、」


素直に嬉しいと思った。

見に行きたいとは思う、……けど。


「出張で疲れてると思うし。今日は、」


そのあとに続く言葉を遮るように、私の頭をポンポンと優しく撫でるように叩いた福元さんは、


「一緒にいたいのに」


私の耳元で囁くようにそう言った。


ドクン、と跳ねて。

きゅんと鳴いて。


心臓が悲鳴をあげてしまいそう。


「……ずるい」

顔を真っ赤にした私を見て満足そうに微笑んだ福元さんは、

「青山のことも。昨日会ってた彼のことも。
詳しく訊きたいしね」

いたずらっぽくそう言ったのだった。

< 231 / 320 >

この作品をシェア

pagetop