愛かわらずな毎日が。

デスクとその周辺の簡単な清掃を終え、一般業務に取りかかろうとした私の耳に飛び込んできた騒々しい足音。

バタバタというよりは、ドタドタと。


「おいっ、間宮!おまえ…っ。ちょっと、ちょっと、こっち!こっち来い!」

その騒音は、朝のミーティングを終えたであろう井沢が作り出したものだった。


「なによ。……って、」

周囲からの冷たい視線もお構いなしの井沢は、もの凄い形相で私の腕を掴むと、そのままズルズルと私の体を引きずるようにして歩き出した。

「ちょっ…、ちょっと、なんなの!?」

手にしていた申請書を机に置くこともできずに放り込まれた給湯室で。


「ばかっ!痛いじゃない!………っ、」

声を荒げた私の両肩をガシッと掴んだ井沢が。


「おまえ、福元部長と付き合ってんのか?」


そう言った。


「…………な、」


なんていう速さ。

恐ろしいほどの速さで井沢の耳にまで。


「デザイン課のヤツから聞いたんだ。
おまえ、まじかよ。まじで福元部長と…?」


バクバクと激しく動く心臓。

ゴクリとのどが鳴る。


私と、きっと井沢ののども。


「どっ、どうなんだよ」


「……………、ょ」


「えっ!?なに?なんだって?」


「そ、う、よ!だったら、なに?」


「げっ。………まじか」


「まじだよ。なんか文句ある?」


「……………」



『福元部長と総務の間宮が付き合ってる』

社内でちょっとした騒ぎになった。



福元さんがヤキモチをやいた日。

ふたりで桜を見上げた日。

久しぶりにお泊まりをした日。


あの日から三日後の、月曜日の朝の出来事。










【END】

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