愛かわらずな毎日が。
・ただ、まっすぐに。
「あいちゃんは、けっこんしないの?」
ぷっくりした指でミニトマトをつまんだ彼女が悪びれた様子もなくそう言った。
「……え、」
言葉を詰まらせた私の向かい側で、
「ちがうよ。愛ちゃんは、結婚しないんじゃなくて、できないんだよ」
フフンと鼻を鳴らしたそいつが、小首を傾げた彼女の口を桃色のハンドタオルで優しく拭う。
「なんで?なんでできないの?」
彼女の、口に入れ損ねたミニトマトがポロッと落ちて、ダイニングテーブルの上をころんと転がった。
「なんで、って……」
そのあとにどんな言葉をくっつけたらいいのか困った私は、転がったミニトマトをつまみ上げると、
「なんでだろうね。かわいそうにねぇ」
と言ったそいつの皿にポトリと落として苦笑いをする。
「ふぅん。けっこんできないんだって。かわいそうなんだって」
キャッキャと笑うのは、数ヶ月後には3歳になる姪っ子の桃奈。
「もも。あんまり笑うなよ。愛ちゃん泣いちゃうからな」
目を細めて桃奈の頭を撫でるのは、5つ年下の弟の真斗。
『あいちゃんは、けっこんしないの?』なんて。
2歳児の口からそんな言葉を聞かされるとは。
肉汁がすっかり流れ出てしまったハンバーグを箸で小さく切りながら、向かい側に座るふたりに気づかれないようにそっと息を吐き出した。
11月の、とある日曜日のこと。