雪人
 ルイは城門へと続く道を歩いていた。両側には花壇みたいなものが設置されているが、生けられている花は萎れて色を無くし、首をもたげている。それらが示すことは、長い間、人の手に触れられていないようだということ。
 雲の隙間から淡い月明かりが射す道をゆっくり歩いていくと、ふと、ルイが何かに気付いたような表情をした。目は前方に向けられている。
 ルイの視線の先には、閉じられているはずの城門が開いていたのだった。用がなければどんなことがあろうと開かない城門が開いているということは、何かしらの理由があるのだと決め付けて、門へと足を進めた。
 ルイが城門へと差し掛かった時、不意に足元にコロコロと石が転がって来た。訝しそうに視線を落とし石を見た。何処にでも転がってそうな石で、何一つ奇妙な点はない。
 石に何も仕掛けがないことを確認すると、ルイは城門を出た。
 次の瞬間、城門前の広場にわっと虫が湧いたかのように、民家や路地に隠れていた人達で溢れ返った。
 地国の民衆が城門前にいるルイとレミィを瞬く間に取り囲んだ。 囲まれたルイは少し驚くも、ぐるっと見回すように民衆を眺めた。皆、濃さはそれぞれ違いがあるけれど、同じ茶色い髪をしている。
 ルイが辺りを取り囲んでいる民衆の出方を伺っていると、一人の紳士風の老人が一歩近づいていく。
「お主は何ものかね?」
 紳士風の老人は、表情は温和こそ刺を含んだ言葉をルイに投げ掛けた。
「俺はジハードという組織に所属している傭兵で、ルイと言います」
 気圧されたようすを見せず、はっきりした口調でルイは告げた。その発言を聞いた民衆からざわざわと口々に耳打ちが連鎖していく。
「ジハードのものか……今にして何故そのような方が来られるのかな?」
「依頼を受け、任務を全うしに来ただけです。もう、任務は達成されました」
 紳士風の老人はこの都市の都長なのだろう、とルイは推測した。「そうかね。では、そちらの女王をどうするつもりかね? 我らに委ねてもらえないかな?」
 紳士風の老人の瞳が怪しく光った。それを察知したルイは当たり障りなく答える。
「ある場所に連れていくだけです。あなた方は女王をどうするつもりなのですか?」
「何、散々苦しめられた女王に処刑をするだけじゃ」
 辛辣な言葉で当たり前のように老人は言った。
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