BLACK∀NGEL-紅雪の鬼-



 パジャマが開けた部分から覗
 くお腹に着いた何か。
 はて?首を傾げながら指でそ
 の何かに触れてみる。
 黒いシールのようなソレは確
 かに肌に密着していた。


 「え、え、え?」


 十字架。
 しかも逆さまの。

 黒い十字架はいくら擦っても
 左脇腹から消えてくれない。
 変だ。
 まるで入れ墨みたい。


 「………」


 暫く弄ってみたが無駄なこと
 だと分かったのでとりあえず
 学校へ行く仕度をし始める。

 後でお兄ちゃんに相談しよう
 。

 スカートのホックを留めよう
 としたその時――。


 ガリッ


 「Σいったぁ!?」


 自分の爪で例の十字架を引っ
 掻いてしまった。
 じわり、血が滲んでいく小さ
 な傷に触れた瞬間――


 ヴウ゛オオオアアアアッ


 「――!?」


 びくっ

 巨大な咆哮が聞こえて身体が
 跳ねる。
 驚きで心臓がバクバクしてい
 た。

 どうして、どうして、

 指についた血が、黒い。

 唖然としたまま窓の外に目を
 やる。


 ヴウ゛オオオアアアアッ


 夢に出てきた龍の唸りみたい
 だ。
 でも風の筈。
 有り得ない現象が頭を過ぎっ
 て力無く笑う。

 なんなんだろうコレは。
 なんでこんな気持ちになるん
 だろう。


 ヴウ゛オオオアアアアッ


 やめてやめてやめて。
 そんな声で呼ばないで。
 世界を覆い尽くしそうな悲し
 い声に、一粒の涙が伝った。


 私はどうしてしまったんだろ
 う。
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