【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
「あらっ、そんな仕事なら
何時でも辞めさせてあげて宜しくてよ。
私、あの店の会長とは懇意にしてますもの。
貴方が、恭也さまと付き合い続けると言うなら
貴女から仕事を奪うことも簡単なのよっと
今日は警告にお邪魔しただけですわ」
何度も何度も、
恭也の名前を『さま付』で
連呼する彼女。
「アナタ、さっきから好き放題言ってるけど
名前は?」
「あらっ、貴方ごときに名乗る名前なんて
持ち合わせてませんわ。
ただ私は、多久馬恭也の
正統な婚約者と言うことですわね」
多久馬恭也の婚約者?
そう言いきった
この女の物言いに今までの罵られてきた現状が
理解できた。
だけど今更どうして?
小父さんにも、小母さんにも
婚約者の存在なんて、聞いたこともない。
勿論、恭也の口からも……。
動揺から震えだす手が、
ティーカップを上手く持たせてくれない。
惨めに震えの振動で溢れる
紅茶。
「あらっ、何も知らされていないのね。
何も知らされないのは、
恭也さまにとって、貴方が必要とされていない証拠。
貴方は変わってないわ。
地味で光らないのは、あの日と同じね。
結城神楽」
そう言って私を呼び捨てにして、
好き放題罵るその人。
逃げた次第心境でいっぱいだった。
そこに自動ドアが開いて、
今月から職場に復帰した文香が
私の姿を捉える。