【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
「すいません。
さっき、ピアノ演奏してた人
ここの先生なんですか?」
勇生は、
店内に居た同じ制服を
着たスタッフさんに
すぐに話しかけていく。
「えぇ。
ピアノの結城先生です。
音大に通う学生さんなんですが、
当音楽教室の講師グレード試験は
2級までとっていらっしゃいますので、
指導力は抜群の先生ですよ。
結城先生も、とても若い先生なので
男性生徒さんたちも多いんですよ」
「そうなんですか。
さっき、外で演奏されてる音が
聞こえてきて、
素敵だなーって」
「有難うございます。
よかったら、
お稽古されて行きますか?
ご希望でしたら、
結城先生
呼んできますが。
最初の30分は
体験レッスンなんで」
「あっ、俺今、受験生なんで
落ち着いたら来ます。
教室の資料とかあったら
貰っていいですかね」
あっと言う間に、
勇生によって、
資料を手に入れる。
「あっ、さっき演奏中
足、庇ってたみたいだけど
結城先生、
どうかされたんですか?」
「個人レッスンの帰りに
捻挫したみたいで。
でも、病院には
行かれてるみたいだから」
「……そうでしたか……。
お大事にって
お伝えください」
どうせなら、
親父のとこに
来てくれたら
良かったのに。
そう思う心と、
他の病院でも
ちゃんと通院して
治療はして
貰ってるんだって
言う安堵と交差していく。
「忙しいのに、
有難うございました」
雄矢が、
そう切り出して
その場から離れると、
俺と勇生もそれに続いた。
エレクトーンの演奏も
今は終わっている。
「決まりだな。
結城先生、
居場所わかって
良かったじゃん。
恭也」
「そうだよねー。
勇生の行動力には
ぴっくりだけど。
恭也、受験終わったら
習いに行けば?
レッスン口実にさ
会いに通えば?」
再会は
……計画的に……。
受験の後に。
今度はこの気持ちの正体と
向き合うために。
時間をかけて。
貴女に
逢いに行くから……。
そして……桜の季節。
俺たち、三人は
高校を無事に卒業して
大学受験も
希望校に無事合格。
神前悧羅大学の医学部に
入学した。
未来の扉が
一つ……開いた
優しい春。
優しい春は
彼女への思いも
優しく彩っていく。