【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
「神楽っ。
下で……聞いてびっくりして来てみたら、
何?
祐天寺昭乃(ゆうてんじ あきの)。
アンタがどうしているのよ」
文香が、目の前の女の人を
見るなり絶叫した。
「あらっ、ご無沙汰していますわね。
文香さま。
家庭に入られて、
すっかり落ち着かれてしまわれましたわね。
さっ、私も暇ではありませんの。
今から恭也さまとデートですもの。
それでは、ごきげんよう」
祐天寺昭乃は、
そう言うと私たちの前から姿を消した。
「ちょっと神楽、何言われたの?」
「ねぇ……文香。
あの人、恭也の婚約者だって今
私に言ったの」
「何?
恭也君の婚約者?
恭也君の彼女は貴方しかいないでしょ。
もっと恭也君を信じてあげなさいよ。
愛してるなら……」
「だけど……文香……。
恭也、ここ1カ月以上帰ってこないの。
病院が忙しい体って本人は言ってるけど
本当はあの人と……」
デートしてるのかもしれない。
そんな不安が湧き上がった弱気な私は、
そんな思考の視界から抜け出すことが出来ない。
すると頬を打たれる痛みが
現実を気づかせてくれる。
「神楽、痛いでしょ。
その痛みが夢じゃないことを教えてくれたでしょ。
祐天寺昭乃が何を言ったかは
神楽は気にしなくていいの。
神楽が考えるのは、恭也君。
気になるなら、彼が真実を話すまで
電話して連絡しなさいよ。
駄目だったら、病院まで顔出せばいいでしょ。
遠慮何てしてたら、恋愛なんて出来ないの。
恋愛に世間体とか考えてたら
成就する者も出来ないわよ」
文香はそう言って私を慰めてくれた。
突然現れたライバル。
祐天寺昭乃。
彼女の存在が、
平和だった私の生活に
黒い影を落としていく。