【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】



「雄矢、
 そんなやり方卑怯だろ。

 恭也には、
 神楽ちゃんが居るんだぜ。

 恋華ちゃんに何とかして貰えないのかよ」


勇生は雄矢の妹の名前を出す。


「恋華に話しても、
 これだけは無理だよ。

 祐天寺は政財界にも名を連ねてる。

 幾ら、恋華の嫁ぎ先が伊舎堂だからって
 簡単に手が出せる相手じゃないんだよ。

 それに今は伊舎堂も、事業拡大に必死になってる。
 そんな時に、祐天寺と構えるようなことはさせたくない」


雄矢はそう言いながら、
力になれない自身を責めるように
唇を噛みしめていた。



「勇生、雄矢。
 無理しなくていいよ。

 これは俺の問題。

 親父の夢が、あんな総合病院だなんて
 知らなかったんだよ。

 あの病院が建設されてた時も、
 何度も前を通ってたのにな。

 多久馬総合病院の多久馬が、
 ただ俺と同じだけだと思ってた。


 雄矢の家みたいに、デカい総合診療が出来る
 病院があるって言うのに、憧れた部分もある。

 医院じゃ、出来る事に限りがある。
 だが総合病院が出来たら、
 もっと地域の人に寄り添える医療が出来るだろう」





だから……病院を
破綻させるって言う選択肢は
俺にはない。




だったら婚約者の存在を強引にでも
受け入れて、親父の夢を守ってやんないと。






翌日、医局に顔を出した俺の前には
祐天寺の娘との婚約が成立したとの情報が
すでに駆け巡っていた。


噂は広がるのが早すぎて、
突然出来た婚約者の存在に、
振り回されながら、ただ時間だけが流れて行った。




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