【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
11.愛の夢~束の間の安らぎ~ -恭也-
気が付けば父が旅立って
一年の年月が流れていた。
父の夢を知って、
教授の紹介で知らされた祐天寺の存在。
父の夢と引き換えに
脅される形で、俺の婚約者としての立場を
手に入れたその娘。
祐天寺昭乃。
だけど一年が過ぎても、
俺は彼女と結婚するなんて考えられなかった。
父の夢は手に入れたい。
だけど……神楽さんを守りながら、
父の夢を守れる方法がないか、
ずっと考えてた。
神前悧羅学院で繋がって来た
パイプライン。
政財界の息子もいる。
まだ若いけれど、その道で
歩き出してる奴もいる。
そう言うやつも含めて、
政略結婚と言うやり方以外で
援助してくれる存在がいないか、
勤務の合間にかけずりまわる一年だった。
大学病院内では、
教授に目をかけて貰うことが出来て
充実した時間をえられている。
その時間に不服があることと言えば、
祐天寺昭乃の存在。
教授も知っている公認の婚約者と言うことで
毎日のように職場に押しかけてくる
昭乃のやり方には、溜息しか出ない。
今から出掛けましょう。
今日は何時に帰れますか?
お父様が、お父様が……。
俺の行動を監視するみたいに、
毎日毎日押しかけてくる婚約者。
自由時間が失われていく。
そんな時間は精神的にも
俺を追い詰めていく。
だけど……まだ病院を
存続させる未来が見つからない今
祐天寺親子より、有利に立ち回れる術も力も
俺には持ち合わせなかった。
「恭也、また来てたじゃん。
祐天寺昭乃」
そう言って医局に戻った俺に近づいてくるのは
勇生。
「あぁ」
「お前さ、最近眠ってる?」
眠ってる?
眠れるわけないだろう。
俺には……
そんな時間は残ってない。