【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】




「ねぇ、恭也。
 幸せになりましょう。

 お腹のこの子と、私と三人で。

 この子を認知してくれるでしょう。

 何時まで待っていても、
 貴方の心には、今も目障りなあの女がいるの。

 だから貴方が決められないなら、
 貴方の代わりに私が、
 私たちの幸せな未来を作ってあげる。 

 この子と三人で新しい家庭を築くの。

 そしたら、祐天寺の力で貴方は
 亡きお父様が叶えたかった夢を叶えることが出来る。

 地域の人たちも喜ぶわね。

 遠くに行かなくても、
 近くの総合病院で検査して貰えるんだもの。

 貴方は、患者さんたちもお父様も裏切れないわ。
 そうでしょう」



そうやって言葉を続ける
この女が、悪魔に思えた。



力が抜けていくような感じが襲い掛かって
ふらつく体をわざと、壁側へともたれかけて
何とか体勢を整える。



そうやって、その場をやり過ごす俺の傍に
もう一度すり寄って来た悪魔は
更に囁く。



『恭也、今からお父様が此処に来るわ。
 
 貴方の上司の教授さんにも、
 すでにお父様が連絡したみたい。

 さぁ、新居や式の
 日取りも決めないといけないわね。
 
 この子の為にも……』



囁いた悪魔から逃げ出すように、
俺はその場を走り去って、
医局へと駆け戻る。




医局に戻って、休憩する間もなく
再び、教授に呼び出された俺は
祐天寺昭乃の計略に飲み込まれていった。




彼女の父親は、
俺が違うと叫んだとしても、
俺の言葉を信じるはずもない。

生まれてきた子が
俺の子ではないとわかっても、
認知を促してくるのは
もう避けられない。



そして教授夫妻が、
仲人を引き受けると言う大事にまで
俺が知らない間に
話は進められていた。


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