【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
その後は……延々と、
この後のスケジュール。
結納の日取り。
新居となる家の話。
祐天寺親子が楽しそうに
話すそのどれもが、
これから俺自身の身に降りかかる
現実感が全くない。
ただ心に押し寄せるのは、
虚しさと喪失感だけ。
そんな時間から逃げ出したくて、
ふらりと訪れるのは神楽さんの家。
訪れたその家に、
明かりはついていない。
一目だけでも逢いたい。
もう離れないといけないと思いながらも、
俺が唯一、休むことは出来る場所は
神楽さんのところにしかないのだと
俺自身が一番知っているから。
甘えてしまう……。
彼女の帰りを、
玄関の前で待つ俺の姿は、
見っともないかもしれない。
だけど……それでも、
その場所から
離れることは出来なくて
ただずっと待ち続けた。
半時間ほど待ち続けた後、
視界に映る暗がりに、
神楽さんらしきシルエットを捉える。
待ち焦がれるように
その場所に視線を向ける。
神楽さんの視線が俺を捉えて
表情が変わった気がした。
「おかえり、神楽」
思わず両手を広げて
声をかける。
「ただいま……恭也」
神楽さんは、俺の胸に飛び込んできて
その体を委ねるように抱きつく。
そんな彼女の背中に、手をまわして
もっと深く近づけるように抱きしめる。
「今日は有難う。
母さん、喜んでた」
「ううん。
私も楽しかったから……。
ご飯は?」
「まだ食べてない。
最近、仕事でずっと会えなかったから
今日は真っ直ぐに此処に来たんだ。
逢えるかも知れないって思えたから」