【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
そして……お客さんからのリクエスト曲を
即興で奏でると、
ゆっくりとお辞儀をして
文香へとバトンタッチ。
文香も、アニソンから最近のJ-POPまで
幅広く演奏して、会場内を盛り上げていく。
気が付いた時には、
店内の外にも、
演奏の為に足を止めてくれた人たちが
ガラス越しに中を見つめていた。
再度、合図を貰ってから
文香とアンサンブルのフィナーレを届ける為に
ピアノの前へ。
今回はディズニーのメドレーを繋げて
一気に会場内を盛り上げると、
ゆっくりと二人でお辞儀をした。
演奏が終わって、
立ち去っていく観客たち。
私たちのマネージャーをしてくれてる、
パートナーの川瀬さんたちは、
集まってた観客の人たちに、
30分無料の体験レッスンのチケットを配っていた。
このサロンコンサートは、
(演奏してみたい)と思わせることが重要視される。
新生徒勧誘のための、
デモ演奏会的な役割だった。
お辞儀を終えて、正面を見た時
私は……あの冬の日に、
助けて貰った少年の姿を見つけた。
週末にセンター試験を控えながら、
凄く余裕だった……あの男の子。
「ねぇ、どうしたの?
あの男と子、ちょっとかっこいいじゃない?
神楽の事見てるんじゃない?」
体をくっつけながら、
小声で尋問するように問い詰める文香。
「別にそんなんじゃないって。
ほらっ、正月明けに足、捻挫したじゃない?
その時に、助けてくれた男の子なのよ」
「えっ、マジ?
制服じゃなかったからわかんなかった。
私服になった途端に、一気に雰囲気が大人びてない?
あの子、そう言えば前に友達と来てたのよ。
私、お友達に体験のチラシ渡したもの。
あの子の友達も、いい感じなのよ。
もう、お姉さんが手取り足取り
一から指導してあげたいわー」
手取り足取り、一からって……。
確かに……そうとも取れるけど、
アンタが言うと、
ストレートには考えられないよ。
裏がありそうで。