【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
13.結婚式 Ⅰ -恭也-
「恭也君、準備は出来たかね」
そう言って姿を見せたのは、
祐天寺の関係者。
「はい」
問いに対してゆっくりと頷きながら
心の痛みと胃痛を感じる。
「昭乃お嬢さんにはあわれますか?」
「いいえ」
そう言われた言葉に、
反射的に答える。
そう答えた途端に怪訝な顔をする
祐天寺の親族。
慌てて俺は言葉を続ける。
「昭乃さんのウェディングドレス姿は
もう少し、楽しみにとっておきます。
今は親族の方で、
ゆっくりとお過ごしください。
俺も少し、控室でゆっくりしたいので」
そうやって言葉を続けると
相手は納得したように
俺の控室を出て行った。
ソファ-に腰掛けて、
疲労が蓄積した体を
ゴロリと横たえる。
目を閉じて思い起こすのは、
今日までの道程。
親父の夢。
多久馬総合病院。
親父の残した借金。
地域住民の期待。
突然、現れた婚約者
祐天寺昭乃。
娘の欲の為に、
俺をお金で買うことさえ
厭わない父親。
大学の教授を巻き込んで、
偽りの子供を理由に
何度も脅して、
逃げ道を奪っていった巨大な化け物。
逃げる手立ても見つけられぬまま、
ただ祐天寺の想いのままに
今日まで操られ続けた
屈辱の時間。
痛む胃に無意識に手を添えながら、
深く、息を吐き出す。
「今日が……
俺の結婚式当日か……」
溜息交じりに自虐的に呟いた。