【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
*
婚約してから、この日まで
俺には何一つ、決定権が与えられないまま
準備は進められた。
職場に迎えに来た昭乃と祐天寺氏によって、
連れて行かれた先で、突然契約することになった結婚式場。
披露宴会場。
祐天寺昭乃が当日、
自分を彩るウェディングドレスのオーダーの付き添い。
ウェディングプランを話し合う場でも、
俺にとっては、興味をひくものではなかった。
隣に居るのが、神楽さんじゃない現実。
好きでもない人との
記念行事に、意味など感じられなかった。
地獄の時間にも似た時間が
俺を毎日のように、追い詰めていく。
傍らで、お腹に手を添えながら
何度も愛しそうに微笑む悪魔は
幸せの花嫁を演じる。
「ねぇ、恭也。
恭也は、こちらのドレスとこちらのドレス、
どちらが似合うと思う?」
そう言って嬉しそうに微笑む悪魔。
「好きに選んだらいいだろ。
俺には式なんてどうでもいい。
所詮、俺は祐天寺に……」
親父の夢を受け継ぐための
大きな金銭援助と引き換えに、
俺自身を身売りしたも同然なんだよ。
親父の夢を……叶えるために。
そうやって心のなかで続けて、
握り拳を震わせた。
そうやって頑なな姿勢を見せる度に、
悪魔は悲しそうに泣いて
周囲に同情をかおうとする。
「あらっ、結婚式は夫婦になるための
大切なお披露目会。
当日の主役は花嫁さんですが、
二人で築き上げるものですよ。
多久馬さんも、もっと祐天寺様をサポートしてあげてください。
妊娠中の花嫁さんは、
デリケートなのですから。
祐天寺様のお腹には、お二人の赤ちゃんがいらっしゃると
伺っております。
まだお腹が目立つ前ではありますが、
その辺りも考慮したデザインにされると宜しいかも知れません」
そんな悪魔に翻弄されるように
時間は過ぎていく。
そんな時間をやり過ごしながらも、
援助してくれる
そんな人を探しながらの
俺の時間は過ぎて行った。
もう時間がない。