【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
「ほらほらっ。
神楽、声かけてやんなよ。
男の子が、ピアノとかエレクトーン習うのって
勇気いるんじゃない?
小さい時からやってるんなら別だけど、
普通は、あのくらいの時期って言ったら
地下でやってるような、
ギターとかドラムとかの楽器っぽくない?
だけど……彼は、ここに居る。
もう、神楽が目当てとしか思えないんじゃない?」
そう言うと、文香は私の背中を両手でバチーンと
突き放すように押すと、
反動は飛び出した体は、
恭也くんって言う名前だった男の子方へ
フラリと躍り出る。
すっぽりと彼によって受け止められた
私の体。
「お姉さん、
ちゃんと前見て歩きなよ」
相変わらずの憎まれ口を叩きながらも、
その目は柔らかい。
恭也君は、私をゆっくりと立たせると
照れたように慌てて離れた。
「今日はどうかしたの?」
そっぽ向いた彼に向かって、
話しかける言葉は、
当たり障りのない言葉。
「習ってみたくて……」
そうやって呟くように言った
彼の言葉に、
思わず私は彼の顔を凝視する。
「そっか……。
あっ、一月。
助けて貰ったとき、センター前だったよね。
大学は?」
出逢ったころの記憶を辿りながら、
二人しかわからない会話を続けてみる。
「志望校に合格しました。
だから、来たんです」
だから来たんです。
そう言い切った、
彼の言葉にドキっと鼓動が弾んでる
私がいる。
別にそんな意味じゃないはずなのに……。
彼の紡ぐ何気ない
言葉の一言一言に……
凄く心が高鳴ってる。