【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
「お母さんのことは、家内に任せておけばいい。
それよりも今は君だな。
勇生も心配していた……」
そう言って、声をかけるのは
親父の代わりに、この多久馬医院を守ってくれてる
勇生の父親。
勇生の親父さんに支えられるままに、
母の部屋から離れて、
リビングのソファーへと腰かける。
「恭也君、君が犠牲になる必要はないんだよ」
そう続けられた言葉。
だけど、もう戻れる道は何一つ残っていない。
祐天寺によって発送された招待状が、
もうそれぞれの家へと届いてる。
「西宮寺先生。
多久馬総合病院が守れたら、
どうかそっちの病院を手伝ってください。
親父の親友として。
共同経営者の一人として。
その為なら……
俺の決意は変わりませんから。
守りたいんですよ。
どんなことをしても、
親父の夢を」
そう言って多久馬の家を後にした。
そのまま居場所がなくなった俺が
行く場所は、祐天寺の屋敷。
招待状発送から数日が過ぎて、
招待客からの出欠を報せる葉書が届き始めたものの
母親が先に手を回したのか、
俺の親族で出席に○を付けたものは一人もいなかった。
それでも祐天寺は気にしない。
急きょ、形だけでも体裁を保つために
俺の親族を、思う人数だけ雇い入れる。
本当に誰からも
祝福されることのない結婚式。
それでも夢が守れるなら、
俺だけが耐えればいいと思った。
そんな中ある日見つけた、返信葉書。
結城神楽。
出席。
出席に○がつけられた
その葉書を紙で掌を切ったことすら
気が付かないほどに握りしめた。
神楽さんが何を思って、
この葉書を書いたんだろう。
申し訳なさと罪悪感で
潰されそうなほど、
心が痛んだ。