【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】



「良かったわね。

 結城神楽さんが出席してくれて。

 アナタが招待してなかったから、
 私がしておいたの」



そうやって悪魔の笑みを浮かべる彼女。


ふらつきすら覚えた体を必死に支えて、
俺が出来た唯一の抵抗は、
全ての事情を告げたうえで、
雄矢と勇生、
そして勇生を通して神楽さんの親友、文香さんに
結婚式当日の神楽さんを支えて貰うことだった。




悪魔が仕組んだ招待。


彼女の身に
何がふりかかるかわからない。



彼女の発作が……
また起きないとも限らない。



だけどその時、
俺は彼女の傍に駆け付けることは出来ない。



だったらせめて……
俺と彼女の事を良く知る、
雄矢や勇生に対応して貰えれば
安心して託せると思った。



文香さんの強さがあれば、
その日の悪魔の嫌がらせも、
神楽さんは乗り越えてくれると
思い込みたくて。












思い返すだけでも、
他人事だな。



今日がその日だなんて。



過度なストレスは、
俺を追い詰めるのには十分で
そんな体調不良を
押し殺して迎えた当日。



その日も何もかもが、
他人事のように思えた。



「恭也、入っていい?」



ふいにノック音と共に
雄矢の声が聞こえた。


慌ててソファーから起き上がって、
親友を招き入れる。



「お前……寝てたのか?」

「まぁな。
 最近、寝る時間がなくてな。

 それより勇生は?」




そんな有り触れた言葉を呟いても
雄矢に誤魔化しは
きかないのを知りながら。



「文香さんと神楽さんの傍」


雄矢の声に痛む俺自身。


「後悔しないのか?
 お前がその気なら、父さんに交渉する。

 今の大学に居られなくなって、破門状が出るなら
 鷹宮に来たっていいんだ。

 すぐに親父さんの夢が叶わなくてもお前がそれを
 忘れずに抱き続けてれば、その夢は生きてるだろう。

 この方法しか、お前が望む世界には
 手に入れられないのかよ」




そう言った雄矢の声に、
ただ黙って首を横に振った。


< 141 / 317 >

この作品をシェア

pagetop