【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
「良かったわね。
結城神楽さんが出席してくれて。
アナタが招待してなかったから、
私がしておいたの」
そうやって悪魔の笑みを浮かべる彼女。
ふらつきすら覚えた体を必死に支えて、
俺が出来た唯一の抵抗は、
全ての事情を告げたうえで、
雄矢と勇生、
そして勇生を通して神楽さんの親友、文香さんに
結婚式当日の神楽さんを支えて貰うことだった。
悪魔が仕組んだ招待。
彼女の身に
何がふりかかるかわからない。
彼女の発作が……
また起きないとも限らない。
だけどその時、
俺は彼女の傍に駆け付けることは出来ない。
だったらせめて……
俺と彼女の事を良く知る、
雄矢や勇生に対応して貰えれば
安心して託せると思った。
文香さんの強さがあれば、
その日の悪魔の嫌がらせも、
神楽さんは乗り越えてくれると
思い込みたくて。
*
思い返すだけでも、
他人事だな。
今日がその日だなんて。
過度なストレスは、
俺を追い詰めるのには十分で
そんな体調不良を
押し殺して迎えた当日。
その日も何もかもが、
他人事のように思えた。
「恭也、入っていい?」
ふいにノック音と共に
雄矢の声が聞こえた。
慌ててソファーから起き上がって、
親友を招き入れる。
「お前……寝てたのか?」
「まぁな。
最近、寝る時間がなくてな。
それより勇生は?」
そんな有り触れた言葉を呟いても
雄矢に誤魔化しは
きかないのを知りながら。
「文香さんと神楽さんの傍」
雄矢の声に痛む俺自身。
「後悔しないのか?
お前がその気なら、父さんに交渉する。
今の大学に居られなくなって、破門状が出るなら
鷹宮に来たっていいんだ。
すぐに親父さんの夢が叶わなくてもお前がそれを
忘れずに抱き続けてれば、その夢は生きてるだろう。
この方法しか、お前が望む世界には
手に入れられないのかよ」
そう言った雄矢の声に、
ただ黙って首を横に振った。