【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
15.満たされない心 -恭也-
結婚式の日、
披露宴会場から
文香さんに支えられるように退場した
神楽さんの声が耳にこびりついて離れない。
『おめでとう』
絞り出すように、
力投げに告げられた言葉。
その瞬間、
胃に痛みが走ってく。
今、手を伸ばして
彼女を抱きしめることが出来たら?
約束通り、
神楽さんと文香さんの近くには
勇生が付き添って居てくれた。
その後も、俺と祐天寺昭乃の結婚を祝う
招待客たちが、次から次へと
俺たちの前を歩いて行く。
それぞれに祝いの言葉をぶら下げて。
離れたいのに、
離れることが許されない現実。
そんなゲストたちの対応をしながら、
ホテルの客たちによって、
騒がしくなる一階。
『神楽~っ!!』
響く文香さんの声に、
動揺する俺自身。
すぐにでも駆けていきたい想いを
必死に押し殺して、
何度も何度も、言い聞かせた。
『大丈夫。
神楽さんの傍には、
勇生が居る……』
俺は最愛の人を
裏切って苦しめた張本人なんだから……。
偽りの笑みを浮かべて、
ただその時間を演じ続けた。
全てのゲストを見送り終わって、
控室へと戻った俺の前に
姿を見せたのは雄矢。