【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】



「私もここで沢山泣いたのよ。
 自分を責めながら……。

 でもちゃんと歩き出せる。

 あなたも……。

 さっ、アナタの家まで送るわ」




そう言ってその人は、
地蔵様の前から動けなくなった私を抱え起こすと
ゆっくりと元来た参道を通って、
駐車場に停めてあったタクシーの後部座席へと私を
促した。



そのまま自宅まで送って貰ったそこには、
鷹宮の病院から姿を消したのを知って
心配して探し回ってくれていたらしい文香の姿があった。



「神楽……。
 もう、心配したんだから……」


そう言って私の背中に
支えるように手を添える。



「勇生君にも連絡しなきゃ」


そう言って、文香は私を抱きしめた。



「お寺にいってたの……。
 沢山、謝らないといけなかったから」



そのまま自宅に戻った私は、
それ以上、体を起こしてる気力もなくて
そのままベッドへと倒れ込んだ。


「神楽、私……今から用事があるから
 傍を離れるけど、
 少し休んだらご飯食べるのよ。

 冷蔵庫にラップして入れておいたから」


そう言葉を残して、
文香は私の部屋から出て行った。



そのままベッドに体を委ねるように
沈み込むと、
我が子が居なくなった
お腹に無意識に手を伸ばす。





その次の日は、公休で一日
ベッドの中で微睡ながら過ごした。


週が開けて職場に復帰した私は
そこにも祐天寺の
魔の手が伸びていたことを知った。





出勤した直後に呼び出された
上司の部屋。



そこで自主退社を促された





私が……自主退社?
どうして……。




頭の中が真っ白になりながらも、
紡ぎだせる言葉が見つからない。



それと同時に、嫌な懐かしさが
私を包み込む。



発作の前触れを報せる……
そんな症状。



「失礼します。
 藤本冴香さまがいらっしゃいました」



そんな私の前に突然、
姿を見せたのは、
血の繋がったただ一人の妹だった。




冴香は私に気が付くと、
今までの柵が何もなかったかのように、
『あらっ、お姉ちゃん』っと呟いた。




その一言に、
その場に居た教室スタッフが
茫然とする。



「ゆっ、結城先生が藤本さまの……」

「えぇ、血の繋がった姉よ。

 姉がここに居るから、
 私はこちらでのコンサートをお受けしたのよ」



冴香がそうやって切り返した。




えっ?

ただ何が起きたのかわからなくて、
ただ冴香を見つめる。
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