【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
「戸北(ときた)さん。
私の姉を呼び出して何かあったんですか?」
冴香がそう続けた途端、
上司の顔色が変わった。
「まさか、母のスポンサーの圧力で
姉をここから排除しようだなんて
企んでませんわよね。
だったら今回のイベントを最後に、
私はこちらとのビジネスを打ち切ろうと思いますが
宜しいですか?」
そう言って、冴香は続けた。
私が何も話せない間、
冴香は戸北さんと話し合いを続け、
その結果、
私はこの会社に残ることは許された。
但し、祐天寺グループの顔色も伺いたい
戸北は系列の他の教室へと
異動させることを申し出た。
「それでは、戸北さん。
これからも良いお付き合いを
楽しみにしています。
再来月、また日本に戻ってきますので
その時、こちらでゼミをさせて頂きますわ。
三名が限界でしょうが、レッスンを付けることも可能なので
生徒さんを調整お願いします。
さっ、お姉ちゃん。
退室しよう」
そう言うと冴香は、
私を支えるようにゆっくりと出て行った。
久し振りに再会することが出来た冴香と、
職場近くの喫茶店に入る。
「久しぶり」
「うん」
「元気してた?」
「元気だよ。
お姉ちゃんは大変そうだけど」
そうやって紅茶を口元に運びながら
冴香は呟いた。
「どうして?」
冴香がどうして、
あんな行動をとったのか、
私にはわからなかった。
「だって祐天寺のやり方が気に入らないから。
幾ら、お母様のスポンサーだからって
やり口が汚すぎる。
それに……私の友達が教えてくれたの。
祐天寺は危険よって。
それに……祐天寺の招待で出かけた結婚式。
あの日、私びっくりしたの。
あの時の新郎って、
サイン会のあの日、お姉ちゃんに駆け寄った人でしょ。
私、顔見た途端に
あの頬を打ちつけてやろうって
お母様の目を盗んで新郎の傍まで行ったんだから。
あの人、私が行ったら
何も言わずに、気が済むなら殴っていいですよって。
藤本冴香さんって。
そうやって言われたら、やる気失せるって言うの」
恭也がそんなこと……
冴香が言ったの?
「ねぇ、お姉ちゃん。
今も……あの人の事、好き?」
そうやって告げられた
冴香の言葉に、
頷くことが出来なかった。