【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】





「そっか……。

 私たち姉妹って、お互い恋愛には
 苦労するんだね」




冴香はそう言って、
携帯電話の待ち受け画面を
テーブルに置いた。




「この人って?」



画面に映っているのは、
世界的にも有名なマエストロ。

羽村貴置(はむらたかおき)さん。



「羽村さん。

 もう結婚してる人だから、
 私たちの関係は不倫。

 だけどね……
 どんなに反対されても、
 私……貴置と一緒になる。

 貴置も、奥さんと別れて
 一緒になってくれるって
 そう言ってくれたから。


 だから……お姉ちゃん。

 私、その時が来たら……
 お父さんもお母さんも捨てるね。

 私は二人の思い通りになる人形じゃないから。

 操り人形のままで終わるのは嫌だから」



そう言って吐き出した、
冴香の瞳は、何処までも力強かった。





どれだけ思いあっていても
祝福されることのない恋。








そうだね……。



私たちって、
似た者同士だね。





その夜、
冴香を私が住む家に招き入れて
久々に姉妹の時間を過ごした。





私のスタインウェイに触れる冴香。




「お姉ちゃんも弾いてよ」




そう言われて、
自然と指が紡ぎ出してしまうのは、
やっぱり、恭也の好きな……
私たちの大切な愛の夢。



その曲だった。





長年の溝を埋めるように過ごした
一晩。









離れないといけないと知りながら、
離れることが出来ない
私自身の心を
強く、思い知る。


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