【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
18.甘い声で囁いて -神楽-
今、目の前に恭也が居る。
新しい職場に、
勇生君が姿を見せた時は戸惑った。
動き出せなかった背中を
優しく押してくれたのは、
親友の文香だった。
文香に背中を押されて、
そっと握った勇生君の手。
勇生君によって連れられて向かったのは、
初めてお邪魔した、
勇生君たち家族の愛の巣。
優しく私を迎え入れてくれた
勇生君の奥さん。
動けずに玄関で立ち止まってしまった
私の手を掴んで、
家の中に連れて入ってくれた、二人のお子さん。
冬生君。
そんな勇生君の家族の温かさに触れて、
再会できた恭也。
不倫でもいい。
誰から祝福されなくてもいい。
私の全てがアナタを欲し求めているから
だから……その甘い囁きの中で、
溺れ続けたいと……そう願った。
『祐天寺を利用して力をつけたら
迎えに行く。
親父の夢も叶えて。
だから……
後、五年……いや、六年時間が欲しい。
そしたら必ず、迎えに行くから』
そう言って抱きしめてくれた、
彼の言葉を支えに……
私は、その日を待ち焦がれる。