【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】




勝也君が誕生した翌年。



恭也のお父様の夢だった病院が
完成した。




若輩の身で、
神前医大を辞めて
多久馬総合病院の院長に就任した恭也。


恭也と一緒に共同経営者として
名前を連ねたのは、
西宮寺勇生。


恭也の親友の勇生君。



その二人を支える存在として、
多久馬医院を守ってくれていた
勇生君のお父さんが柱として存在した。



その地域に初めて出来た
総合病院は、地元の患者さんたちにも
愛される立派な病院だった。




忙しく新病院を軌道に乗せるために
奔走する恭也。



忙しそうな恭也は、
疲れると……その羽を休ませに
私の元へと帰って来てくれた。




その度に強く抱きしめて、
恭也の甘い声を求める。



世間では受け入れられることのない
不倫と言われる関係でも、
二人で過ごせる時間は
ただただ……甘く美しい時間だった。


ズルズルと重ね続ける関係のまま、
やがて月日は約束の五年後を迎える。




その日の私は、
朝から体の怠さを覚えていた。



最初は風邪かなって
思った時もあったけど
最近……生理が
遅れてしまっていることも重なって
ゆっくりとお腹に手を添えた。



『まさか……』



五年前の失った
命の重さを感じる。




恭也君に何も告げることなく、
受信したのは、
五年前に我が子と別れたあの場所。



恭也の親友、
雄矢君の家が経営する病院だった。



鷹宮総合病院の産婦人科で、
確かに宿った命を知った。



五年前の主治医でもあった
その先生は、
『良かったわね。今度は無理しないのよ』って
そうやって私に笑いかけてくれた。




その日から、
二人の生活が始まった。




恭也との時間は、
その後も続いていたけど
妊娠の事実を彼に告げることは出来なかった。




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