【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
20.君が残してくれたものを抱きしめて -神楽-
あの場所を逃げ出して、
数日が過ぎた。
恭也の隣は
何処までも暖かいけど、
そんな時間が長く続けば続くほど
報われない愛に苦しみ続ける。
全てを捨ててもう一度歩き出せれば
どんなに良かっただろう。
だけど……私には……。
恭也の元から離れた私が選んだ
その土地は、
見ず知らずの土地って言うわけではなかった。
藤本(とうもと)の家族が
海外に移動する前に、
生活していた土地。
あんな悲しい想い出しかなくても、
この傷ついた心を抱きしめて、
もう一度立ち上がんるためには
全く知らない土地に行くことは出来なかった。
恭也の傍を離れて、
恭也の手の届かない
私が少しでも安らげる土地。
そうやって見つけ出した土地の物件を探して
荷物を引っ越しさせたのが、
二週間前。
そして私がこの土地に移り住んで、
一週間。
まだ目立たないお腹にそっと手を当てながらに、
ゆっくりと我が子に話しかける。