【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
「ホント?ママ、パパ。
和羽、今からお出かけしていい?」
和羽ちゃんの言葉で
急きょ招待したまだ片付いていない我が家。
その我が家は勝手口側、道向かいの斜め右。
とても近い位置にあった。
「こんなに近かったのね」
「そうね。
玄関からだと遠いけど、
勝手口からだと、こんなに近いわね」
この場所に来て、
初めてのお客様。
和羽ちゃんはすぐにピアノへと走っていく。
引っ越ししてかすら閉めっぱなしだった
グランドピアノの鍵をガチャリと開けて
ゆっくりと鍵盤の蓋を持ち上げる。
「おば……あっ、えっと……おねえさん?」
覗きこむように言いなおす和羽ちゃん。
「こんなに素敵なピアノを持ってるなんて凄いわ。
私、スタインウェイのピアノを
こんなにも近くで見たのは初めてよ。
私の家は、電子キーボードがあっただけだから。
ねぇ、神楽ちゃん。
良かったら何か聴かせて?」
そう言われて、
私は久しぶりにピアノに向かった。
思いつくのは……
恭也との思い出の曲。
お腹の中のこの子にとっても
胎教として……意味深い曲になって欲しい。
静かに、柔らかく、キラキラと奏でる
その『愛の夢 第3番』。
その曲を演奏しながら、
今までの私たちの時間を思い出す。
こんなにも優しく奏でることが出来る。
ただ狂おしかったこの曲が
今は、穏やかな時間を演出する。
全てを演奏し終えた後、
倫華さんたち家族に拍手を貰った。
そして……多分。
貴方も拍手してくれてるわよね。
お腹にそっと手を当てる。