【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】



「恭也様。

 勝矢さまも大きくなられましたね。
 昭乃お嬢様によく似てらっしゃいます」
 


元々が昭乃付きの運転手だったその男は
そう言うと、
またドアを閉めて運転を始めた。


開いたばかりのノーパソを閉じて
鞄に片づけると、
ゆっくりとシートに体を預けて
目を閉じる。





我武者羅に走り続ける時間は、
神楽さんが俺の前から姿を消して
5年の月日が流れていた。



神楽さんを失った時は、
ショックで何度も何度も、
街の中を徘徊して探し回った。


雄矢の妹に関西にいると聞いた言葉を手掛かりに、
探偵を雇って行方もおわせた。

神楽さんが消えた1年後。
ようやく届いた1枚の写真。


そこには寒い冬の日。


助産院の前で、
俺の知らない男の人が傍に居て
腕の中に赤ちゃんを
抱く神楽さんの姿だった。



その男の手には、
まだ幼い女の子の手が
繋がれていた。


嬉しそうに微笑む
その三人の写真は、
俺にもう、彼女が手の届かないところに
行ってしまったのだと感じさせた。



神楽さんに
俺が与えることが出来なかった
幸せの家族の形。




彼女が幸せになってくれれば。




ただそれだけを願いながら
今日までの道を歩いた。




祐天寺の力を活用して
まずは多久馬総合病院を軌道にのせる。


義父からの経営の独立。


義父の力は絶大で、
病院の目玉になる医者を
その分野分野で引き抜くことが出来た。

父の夢から始まった
俺の夢の病院は、
各専門分野のエキスパートが集まる病院であり、
地域住民の為の、
そんな存在感の大きい病院へと成長を遂げていた。


そんな俺の片腕になってくれるのが勇生。
そして勇生の親父さん。


勇生が支えてくれたから、
今の俺の夢が、父の夢が現実になった。



「恭也様、病院に着きました」



静かな声が車内に響くと、
後部座席のドアがゆっくりと開かれる。


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