【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
「おはようございます。
病院長」
すかさず、鞄を持つのは
秘書をする白川(しらかわ)さん。
「おはよう、白川。
病棟をまわって、部屋に行く。
11時から祐天寺の経営会議がある。
間に合うように車を手配しておいてくれ。
それと、勇生か美雪さんを部屋へ。
外出中の病院内のことを任せたい」
「かしこまりました。
祐天寺の本社まで、
30分かかる予定ですので早めに10時くらいに
車の手配をしておきます」
「頼む」
白川と離れて病棟へ。
父を慕ってくれた
地域住民の入院患者の部屋を
朝から手早く顔を出して
院長室へと移動した。
「よっ、おはよう。
恭也」
「って、夜勤?
眠そうだけど?」
「夜中に呼び出し、朝までコース」
「そうか……。
医者だって人間だ。
休めるようにしないと、
医療者が疲弊しちまうな。
悪い」
「別に気にしてない。
それに最初は
お前の親父さんの夢だったかも知れない。
けどそれは、俺の親父の夢にもなって
お前の夢にもなった。
今は俺や、美雪にとっても夢なんだよ。
恭也には悪いが、何時かここで……
息子と……冬生と働きたいよ。
忙しくて、遊びに連れて行ってやれないまま
アイツも中学生だ。
デカくなるのは早いな」
そう言って勇生は
ソファ-に座った。
「勝矢は?
継がせないのか?」
「あれは器ではない」
ふいに問われた質問に
俺はすぐに答える。
「器じゃないんじゃなくて、
お前が子供として
見られないだけじゃないか?
ずっと神楽ちゃんのお腹に居たあの子が
気になってるだけだろ」
勇生は言いにくそうな質問を
サラリとぶつけて来た。
ドアがカチャリと開いて、
コーヒーを手に入室してくる白川秘書。
白川はそのままテーブルに
コーヒーを出して静かに退室する。
白川がいれた少し濃い目のコーヒーを
ブラックで飲む。
「今からでも向き合ってやれ。
祐天寺昭乃のやり方は気に入らない。
だが子供に罪はないだろう」
勇生の言う言葉の重みが
残りながら、その時間を過ごした。