【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
晩御飯の後は、
檜野家の家族と移動して
狭い我が家へ。
そして我が家のスタインウェイで
ピアノ教室。
『グルリット初歩者のための小練習曲』
『バイエル』
この二冊を使って、
真人と瞳矢くんと和羽ちゃん。
それぞれに順番に一曲ずつお稽古をつける。
最初のピアノ教本。
音楽の楽しみを知って欲しいけど、
大切な基礎も身につけて欲しいから。
そんな思いで選んだ教本を
三人は嬉しそうに演奏してくれる。
そんなレッスン風景を
倫華さんも、優典さんも優しそうに守ってくれいた。
「パパ、ママ。
おねえちゃん、できないけど
とうや、できたよ。
なおともできたよー。
おねえちゃんだけ、ゆびがたりなくなるの」
同じようにスタートを始めた
三人だけど、今では年上の和羽ちゃんだけが
少しずつお稽古に遅れるようになる。
瞳矢くんや真人は、ト長調の練習に突入。
♯(シャープ)や♭(フラット)が出てくる楽譜を
鍵盤を抑えて音を探しながら楽しんでる。
そんなお稽古の時間を終えて、
二人きりになった親子。
眠い目を擦りながら一緒に入ったお風呂の中で、
真人はパパのことを聞いてくる。
その度に私は用意していた言葉を
何度も何度も繰り返す。
『ごめんね。
パパはお仕事で遠くに居るの。
真人と逢えなくても、パパは真人を愛してくれているから』
ただそうやって何度も何度も
言い聞かせるように話し続けるのは、
今も私の心に、恭也君の存在が大きく残っているから。
恭也君の面影を感じる
真人を抱きしめながら、
私の中の恭也君を心の中で抱きしめる。
大丈夫……。
まだ最後の夜の温もりを
忘れていないから……。