【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
「悪いな。
夜分に」
「いやっ。
こっちこそ、
引き受けて貰えて安心した。
コイルも考えたんだけど、
俺の技術では何処まで出来るか怪しかった。
それに患者は母子家庭なんだよ」
母子家庭の言葉に……
俺の危惧は一瞬薄れる。
苗字が同じだけか……。
彼女は……
神楽さんは、
今はあの人と一緒に幸せにしてるはずだ。
そんなことを想いながら
助産院の前で、
手を繋いでいた1枚の写真を思い出す
「確かに検査のデーターを見ても、
アプローチにも悩むな」
そんな会話をしながら、
ノーパソに映るデーターを
じっと見つめる。
心不全、気管挿管、
人工呼吸、
CHDF(持続的血液濾過透析)施行。
「あのさ、母子家庭って言ったよな。
どんな人?」
思わず零れだした言葉。
「お前からそんな言葉聞くとはな。
まっ、いいや。
患者の母親は、結城神楽。
ほら、ピアニストに居るだろ。
藤本智志と結愛って。
あの二人のお嬢さんだよ」
そうやって切り返す言葉に
思わず携帯を落としそうになる。
そのまま黙り込む俺に
電話の向こうのアイツが
何事かと声をかけ続けるが
その声に集中できない。
震える手で、
何度も何度も見つめるのは
モニターに映された検査データ。
「おいっ?多久馬?」
「松崎、他の検査データーは?」
添付されてるデーターでは
全部が把握できない。