【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】





患者の母親が、神楽さんってことは
この目の前の患者のデーターは
決して表に出すことがなかった
俺の……息子。




あの俺の前から姿を消した時に
一緒に消えてしまった、
お腹の中に居た命。




「もう少し詳しい検査データー
 まとめて送るよ」

「あぁ、早めに頼む。
 今から受け入れ準備を整える。

 こっちから迎えにやるよ」





そう言って、
その日は電話を切る。





一泊するはずの部屋を出ると、
物音を聞きつけて、
勇生が姿を見せる。





「おいっ、朝まで
 まだ時間があるだろう?

 どうした?」




そう言った勇生に、
俺はゆっくりと告げる。




「満床だけど子供を一人
 受け入れたい」



そう告げると、
勇生の眼差しは途端に
張りつめた眼差しへと変わる。


「なんかあった?」

「さっき、松崎から連絡があった。
 7歳の子供を受け入れて欲しいって」

「7歳って?
 お前まさか……」

「名前は結城真人。

 母親は神楽さん……。
 その父親は……俺だよ……」



その俺の一言に、
勇生は慌てるように
俺の鞄を奪って、
中のノーパソを取り出す。



手慣れた手つきで
データーを呼び出して、
じっと画面を見入る。




「悪い、勇生。
 助けてくれるか?」



そう言った
俺に勇生はただ頷いた。



翌日、4件のオペが終わって
部屋に戻って俺の携帯に
懐かしい名前が表示される。






神楽と名前が表示された
携帯を見つけて、
そのまま手を伸ばした。



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