【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
6.再び交わる時間-神楽-
真人を一人で育てていく。
あの日から、そうやって
恭也君と連絡を取らずに
今日まで歩いてきた。
だけど……こんな形で
名前を聞くことになるなんて
思いもしなかった。
今も医療器具を付けられたまま
ガラスの向こう側に眠り続ける
真人を見ていたら、
この子を失うかもしれない
恐怖で押しつぶされそうになって
逃げ出すように病室の前から駆け出して
電話発信可能スペースへと向かう。
頑張ってる真人の前では、
涙は見せられない。
だけど……不安を押し隠して、
笑い続けることも今の私には出来そうになくて。
真人の主治医の先生が話してくれた、
その懐かしい名前を画面に表示させて
発信してた。
今まで何度も表示させながら
一度もコールをしたことがなかった番号へ
すがるように電話する。
携帯電話を握りしめる手も震える。
出て欲しい……。
こんな時だけ助けて欲しいだなんて
自分の身勝手差を実感しながら。
「はい。
多久馬です」
もう何年も連絡すらしていなかったのに
暫くすると、
少し落ち着いた懐かしい声が聞こえた。
「恭也……君……」
声を聞いた途端に決壊してしまった涙は
離れていた時間を超えて
一緒に過ごした愛しい時間を思い出させる。
今も気遣ってくれる
彼の優しい気遣いに
私はまた甘えてしまう。
「真人を助けて……。
私の宝物を……生きがいなの……」
必死に絞り出すように伝えられた言葉は
ただこれだけ。
黙って姿を消した謝罪でもなく、
ただ自分の願いを押し付けるだけの言葉。
ようやく絞り出した言葉に
真人は恭也の子供よって
今更に彼を縛りつけるような言葉は
言いたくなかったから……
それだけは必死に、
言わないようにと言い聞かせた。