【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】

7.再会 Ⅰ-恭也-



オペが終わった俺は、
最後の患者さんの様子だけ覗いて
そのまま、慌ただしく病室を後にする。

向かう先は、
勇生へと頼んで手配した特別室。



オペとオペの合間。


その時間に、
勇生からの報告があった。



真人君と神楽さんが無事に
病院に辿りついたこと。



看病からの睡眠不足で神楽さんも
今は処置をして眠らせているとの
連絡だった。


すぐにでも顔を出したい衝動にかられながら、
ぐっと我慢をして担当患者のオペを
その後も二件こなした。


朝から手術室に入って、
出て来た時には、外は陽が沈んだ後。




そしてようやく、自由な時間を手に入れた俺は
彼女が眠る病室へと向かう。



病室の前、深呼吸をしてノックする。



もしかしたら、
彼女が起きているかもしれないと
緊張しながら。



どんな顔をして逢えばいい?



今も家庭がありながら、
彼女を思い続ける俺は
この気持ちを伝えてもいいのかどうかすら
はっきりとした答えは出ない。



大人な付き合いとして、
全てを隠して再会するか、
あの日から続く、ありのままの時間を
もう一度紡ぎあっていくか。


彼女はどちらを望むのだろう。


そんな疑問が湧き上がる。





ノックをして暫く待っても、
部屋の中から返事は聞えない。



「失礼します」


外から声をかけて、ゆっくりと部屋の中へ入ると
久し振りにみた彼女は今も、
薬の効果もあって眠ってるみたいだった。

真っ先に起こさないように
彼女のバイタルを確認する。



俺と離れて沢山苦労をしてきたのだろう
その手は、カサカサしていた。



そのまま彼女の手を布団の中に戻して、
今度は奥の部屋へと向かう。


そこには、初めて見る
子供が眠っていた。




「真人君……」



思わず名前を紡ぎながら、
別れたあの日の、
神楽さんを思い出す。



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