【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
そんなにいきなり動かしたら……。
思ったとおり彼女の体はふらついて、
俺は反射的に
その体を両手で支えるように抱きかかえた。
「真人君は心配しなくていい。
神楽さんの奥の部屋で眠ってる。
神楽さんも、もう少し休まなきゃ。
朝まで、俺が真人君は見てるから」
そう言うと、
俺はもう一度、神楽さんの体を
ベッドに横にさせて、
不安定な血圧を知りたくて、
手首に触れる。
「恭也君……有難う……。
拒絶しないでくれて」
黙って腕時計を見つめる俺に、
彼女はゆっくりと、
小さな声で呟いた。
そんな彼女の声を聞いたら、
抱きしめたくなる。
もう何も心配しなくていいんだと、
彼女を抱きしめて、
その仮面の全てをはがせたくなる。
決して俺と目を合わせようとしないのは、
合わせてしまうと、
自分を支えるものがなくなりそうで怖いから。
彼女のそう言うサインだと思えたから
あえて、踏み込むことはしない。
今は彼女を泣かせることじゃなくて、
休ませることが優先だから。
「神楽さん、朝まで休むといいよ」
そう言う風に再度、言葉を紡ぐと
彼女は掛布団を持ちあげて、
再び、丸まるように眠りにつく。
寝相で見えてくる
心理状態が……
今の彼女の心を俺に気付かせる。