【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
紙袋を手に再び部屋に戻ると、
彼女はベッドにはいかなかった。
紙袋をテーブルに置いて、
奥の真人君の部屋へと顔を出す。
彼女は、真人君の手を両手で握りしめて
眠りつづける
我が子を愛おしそうに見つめていた。
「気分はどう?」
わざと自分に気が付くように大きめに声をかけて、
彼女の傍へと近づくと、
ゆっくりと真人君に触れながら、
今のバイタルを確認する。
「恭也……君……」
そう言って俺の名前を紡いだ彼女は、
ゆっくりと目を閉じて
次の瞬間、もう一度俺の名前を呼びなおす。
今度は……『多久馬先生』っと。
彼女の口から紡がれる
その言葉に、内心傷ついてる
俺自身を感じながらも
俺は彼女に話を寄り添っていく。
彼女が俺の名を名字で呼ぶのは、
俺に甘えないように
今も必死に、
自分を支えようとしているのが
伝わるから。
彼女が本当に甘えたいと思うまで
俺は黙って待ち続けたいから。
こんな形になるまで、
俺が振り回し続けた彼女だから。
「神楽さん、向こうに行こうか?
美雪さん、覚えてる?
勇生の奥さんが、サンドウィッチ作って
持ってきてくれてた。
一人で食べるのも味気ないから、
良かったら一緒に」
わざと逃げ道を塞ぐように
もっともらしい理由を話しながら
神楽さんが眠っていた
ベッドの方に誘導していく。
ベッドに戻った彼女の状態を
断りを経て確認する。
脈に触れて、そのまま瞼の裏を確認して
貧血とストレスの状態を調べる。