【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
8.再会 Ⅱ-神楽-
「失礼致します」
ずっとベッドに居るわけにも行かず
真人が眠り続ける広い部屋を
見回していた私の耳に
聞きなれない声が響いた。
ゆっくりと開かれるドア。
「結城さま。
真人君の担当看護師をさせて頂きます
浦和と申します」
そう言うと、
浦和さんは私に静かにお辞儀をした。
まだ若い女の子……。
「えっと……」
私は何が言いたいんだろう?
こんな若いスタッフで、
真人を任せても平気なの?
ううん、それとも……
こんな若い人が、
恭也君の傍に居て……。
自分でも信じられないくらいの醜い私が
心の奥に居る……。
そんな自分に気がついた途端に
許せなくて、ただ何も言わずに
眠り続ける我が子の方へと移動する。
ベッドに眠り続ける真人の髪を撫でながら
自分の心を安定させようと努めていると
その浦和さんも真人の眠る部屋へと入って来た。
手慣れた手つきで、
仕事を黙々と進める彼女。
少し冷静になってきた私は、
そんな彼女を疑った自分が恥ずかしくて
邪魔をしないように
真人の傍を離れようと思った。
そんな私に彼女は告げる。
「えっと……何から話したらいいのかな。
私、実家が多久馬医院の隣なんです。
恭也先生は、
小さい時からお兄ちゃんみたいな存在で
恭真先生もずっと、
ホームドクターだったんです。
だから……結城さんの事も知ってます。
恭也先生はあの頃から、
結城さんしかみえてなくて、
告白してもフラれちゃいました。
結婚して旦那も子供もいるんですよ。
でも三年前に旦那が倒れて、
運び込まれたのがここで
恭也先生が助けてくれたんです。
その時から此処で働かせて貰ってるんです。
子育ての時間は休ませて貰いながら。
だから恭也先生から、
結城さんのお子さんが入院するって
知って、恩返しがしたくてお受けしました。
まだ至らないかも知れませんけど、
子供が病気になるって、
家族が病気になるって本当に不安で苦しいのは
わかるから。
無理せずに心を守りながら、やっていきましょう」
突然の告白に戸惑ってしまったけど、
目の前の浦和さんはそう言って
私に微笑みかけた。