【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
「今の神楽ちゃんは、
真人君の前には出せないよ。
恭也からも聞いてるだろう。
ここは完全看護。
家族の付き添いも
24時間の許可はしていない。
真人君の為にも、逃げるのはやめて
話し合っておいで。
今の神楽ちゃんを見ると、
真人君が不安になるよ」
そうやって勇生君は、
私を諭すように釘を刺した。
「恭也の時間は俺が作るよ」
そう残して、
そのまま勇生君は病室を出て行く。
真人の傍には、
美雪さんが居て……
私は真人の傍にも近づけないでいた。
真人の為に
逃げるのをやめる?
私は逃げ出したの?
それとも……
身をひいたの?
今も向き合えない想いは、
私を不安にさせる。
ただベッドに座ったまま、
ボーっと病室の壁を見つめる。
ふいにノックが聞こえて、
顔を見上げると
そこには白衣を
脱いだ恭也君が姿を見せる。
「神楽さん……。
ここは落ち着かないでしょ。
美雪さん、勇生と後はお願いします」
恭也君はそうやって声をかけると、
そのまま私に手を差し伸ばす。
手を伸ばしてベッドから立ち上がると、
何事もなかったように、
彼は病室を後にして前に歩き出した。
恭也君の後を
必死に歩いていく私。
恭也君が歩くたびに、
擦れ違う人たちが次々と
挨拶をしていく。
そんな人たち、一人一人に
挨拶を返しながら
エレベーターへと乗り込んだ。
二人きりのエレベーター。
緊張する私。
横目でチラチラと見つめる
恭也君の顔。
チラチラと見ただけの私を
恭也君の視線が捉える。
ただ恭也君は何も言わない。
その言わない時間が、
また私を硬直させていく。
エレベーターが地下へと到着した時、
彼はエスコートするように
私を先にエレベーターから降りるように促す。