【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】

11.それぞれの闘い Ⅰ -恭也-



二人がここにきて、
二週間が過ぎようとしていた。


来たばかりの頃は、
頑なに心を閉ざしたいた神楽さんも
少しずつ、
前みたいに笑顔を見せてくれるようになった。


やっぱり神楽さんには、
ピアノは大切なキーワードなんだね。


彼女に頼んだ仕事は、
患者さんや家族にも好評で、
彼女の演奏を聴きたいがために、
今まで病室で籠り切ってた患者さんたちも
病室から出て来てくれるようになったと
スタッフから伝え聞いた。


そんな目に見える形で繋がった
成果に俺自身も喜びながらも
目の前の検査データーには溜息しか出ない。



俺が最後の砦になる。



そう思ってるからこそ、
目を背けることも、
逃げ出すこともしたくない。



楽しそうに笑顔を見せて暮らしてくれる
真人君の冠動脈の状況の
深刻さが検査を
すすめるにつれて明らかになる。



ノーパソに映し出された、
心エコー・心電図・胸部レントゲン・心筋シンチ
トレッドミル(運動負荷検査)・心カテーテル。



それらの検査データを見つめながら
病変を映し出した、その場所を
モニター越しに触れる。




ふいに扉が開いて、
同じ画面を覗きこむのは勇生。



「問題は此処だよな」


っと俺自身が触れている
その場所をアイツも見つめた。


「恭也、神楽ちゃんには俺が話そうか?
 お前、きつくない?」

そう言う勇生の言葉を首を横に振って
制する。

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