【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】

13.彼女の為に出来ること -恭也-



手術が無事に終わったその夜、
久し振りに寄り添うように朝を迎えた。


昔のように互いを求め合うように
体を重ねることはなかったけど
服越しにでもお互いの体温を
感じあえるのは久し振りだった。


相変わらず小さく体を丸めて
眠る彼女の眠り方は変わらない。


そんな寝顔を見つめていると、
昔、いつも触れ合っていた時みたいに
彼女に触れたい衝動にかられてしまう。


眠っている今だけなら……
彼女を俺のものにしても
許されるだろうか……。


恐る恐る手を動かして彼女の
柔らかい髪に触れてみる。



たったそれだけのことで、
昔みたいにドキドキしている俺自身。


もぞもぞと丸まった塊が動くと、
驚いたように顔をあげて、
俺から距離を作る。


ふいに隙間が開いたその距離感に
心が痛む。



「おはよう」


俺のそんな痛みには気付いていないのか、
気が付いてか、彼女はそのまま何もなかったように
朝の挨拶。

あの頃と違うのは、
彼女の口付けが降り注がないこと。


「あっ……、おはよう」


引き寄せることが出来なかった彼女の体は、
そのままベッドから抜け出して離れていく。


「朝ご飯、作るね。
 たいしたもの作れないし、
 今の恭也君は豪華なもの毎日食べてて、
 私の手料理なんて口に合わないかもしれないけど……」


そう言って、彼女は
パジャマ姿のまま殆ど使われることのない
キッチンへと消えていった。


一応、キッチン用品は一式揃えられている。


それらのものを使いながら
ベッドから抜け出せない俺の元にも
彼女が作る、手料理の音が、料理の香りが
嗅覚を刺激してくれる。



広くなったベッドで大きく伸びをして、
そんな彼女を見つめる。

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