【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
真人が病気にならなくて、
俺が医者をしていなかったら、
もう二度と会うことなどなかったかも知れない。
ただ……それだけの価値でしかない
俺自身なのか、医者でない俺でも……
彼女は俺を必要としてくれたのか……。
食事を進めながら
彼女を時折見つめる俺の視線。
そんな視線に彼女は気が付いて
柔らかな笑みをくれる。
「恭也君の口に合う?
私の作るご飯は庶民料理だから、
祐天寺さんの贅沢な……って言うか、豪勢な料理食べ慣れてると
口に合わないかも知れないけど、
この朝ご飯は、私にとっても大切なメニューなの。
迷惑かも知れないけど、
恭也君が美味しいって喜んでくれた朝ご飯だから。
なっ……真人も好きなんだよ。
それに……今は、私も好き……」
照れくさそうに俯きながら
ゆっくりと告げられた言葉。
そんな言葉に心が弾んでいく。
彼女の心は、
今も俺に残ってるのかも知れない……。
俺にとって、
今も彼女が一番であるように。
「ごちそうさまでした」
食べ終わった食器を重ねて、
胸の前で手を合わせる神楽さん。
そのまま視線を壁の時計に向けて、
俺の方に向き直る。
「9時まわってたんだ……。
恭也君、引き止めちゃったね。
それに……病院は?
私も真人に逢いに行かなきゃ」
そう言いながら、
俺の方をじっと見つめる。
遅れて食事を食べ終わった俺も、
「ごちそうさまでした」と小さく呟いて
食器を重ねると、
流しの方へと食器を手にして向かう。
俺の後に、
自分の食器を手にして流し台に来た彼女。